読みもの

読みもの

「元気」のための基礎知識《知っておきたい感染症のこと 薬剤耐性菌 編》<PR>

30歳を前に体の変化を感じながらも目を背けてきた取材班の「大」。

健康に長生きしたい! 今だからこそ、病気と健康の基礎知識を学びます。

企画/島根県・島根大学医学部

【今回の先生】

島根大学医学部附属病院

感染制御部 准教授

羽田野 義郎先生

1. 抗菌薬は風邪には効きません

抗菌薬(抗生剤、抗生物質)は多くの人が知っている身近な薬ですよね。

一方で、その役割を正しく理解している人はそう多くはありません。

この時季身近になる風邪やインフルエンザなどさまざまな感染症は、細菌やウイルスによって引き起こされます。

このうち、抗菌薬が効くのは細菌が原因となる感染症(例:尿路感染症、中耳炎など)です。

▷ということは、ウイルスが原因の感染症には抗菌薬が効かないんですか…!?

その通りです。文字通り、抗菌薬は「細菌を殺す薬」です。

そのため、原因のほとんどがウイルスとなる風邪には効きません。

インフルエンザウイルスや近年大流行したコロナウイルスも同じです。

先生「風邪は体に備わる免疫力と睡眠(休息)で自然に治っていくので、抗菌薬は原則不要の感染症なのです」

2. 抗菌薬が効かない「耐性菌」が世界中で拡大

今、抗菌薬が効かない薬剤耐性を持つ「耐性菌」の増加が世界的に大きな問題となっています。

体の中にいる数えきれないほどの細菌たちは自分たちの種を残そうと、あの手この手で薬に対する耐性を獲得していきます。

その繰り返しの中で耐性菌は次々に増えていくのです。

▷耐性菌が現れる要因は…?

最大の要因は、必要のない抗菌薬を使用することです。

抗菌薬を使用すると細菌が耐性を獲得しやすい環境をつくってしまうことにつながります。

また耐性菌以外の細菌が減少し、相対的に耐性菌が増殖しやすい環境ができあがります。

抗菌薬は必要な時以外は使わないことが重要です。

▷耐性菌の大きな問題点は?

耐性菌は、ヒトからヒト、そして病院などの医療環境、さらには自然などの環境中へと広がっていきます。

こうして耐性菌が増えていくと使用できる抗菌薬が減っていき、これまでは適切な治療で軽症の段階で回復できていた感染症が重症化しやすくなり、死亡するリスクも高まります。

このまま対策をしなければ「2050年には がんによる死亡者を超える1千万人の死亡が想定される」という報告*もあります。

そのため今、世界各国で対策に向けた取り組みが行われています。

 

*…英国薬剤耐性に関するレビュー委員会(オニール委員会) 第一次報告(2014年12月)

「私自身も「風邪=抗菌薬」というイメージを持っていましたが、病院側から処方されるケースもあったような…」

先生「『念のため』と抗菌薬を処方してきた過去があったのは事実です。今は医療者側にも正しい認識と体制が広がりつつあり、転換期にあります」

3. 薬剤耐性菌の拡大を防ぐために

抗菌薬の歴史は1928年のペニシリンの発見から始まり、感染症治療の分野で役立てられてきました。

いつしか耐性菌の出現と新たな抗菌薬の開発はいたちごっことなり、近年は薬の開発が追い付かなくなっています。

今ある「効く」抗菌薬を必要な場面で使えるように、一人一人が意識を向けることが大切です。

今回のまとメモ♪

先生「国の機関の調査では、『ウイルスに抗菌薬は効かない』と正しく答えた人は約2割でした。この機会に一人でも多くの人に正しい認識を持ってもらいたいです」

「一人一人が当事者の自覚を持って、行動を変えていかないといけない問題ですね」
一覧へ戻る