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特別号・記念号連続表紙 イラストレーター・マツオヒロミさん ロングインタビュー
生活応援情報紙「りびえーる」特別号(2023年5月27日発行)ならびに600号(同28日発行)の表紙を飾ったイラスト2点は、松江市出身のイラストレーター・マツオヒロミさんの作品。
現在、子育てをしながら作画活動を続けるマツオさんに、創作のこと、家族とのこと、たっぷりお話を聞きました。
マツオヒロミさん(松江市出身)
レトロでクラシックな世界観で和装や洋装の女性を描くイラストレーター。唯一無二の作風は見るものを魅了し、雑誌や書籍をはじめ、東京駅グランスタのシーズンプロモーションや日本橋三越とのコラボなどでも知られる。
【イラストレーターとして】
●絵を描き始めたのはいつごろからですか?
独特のレトロな作風になっていったきっかけも教えてください。
絵は物心つく前からずっと描いていました。本格的にプロを目指して描き始めたのは大学一年生の頃です。
もともと子どものころから時代劇が好きだったり、大正浪漫(ロマン)やレトロな雰囲気が好きなので、ずっとそういう画風を模索し続けていって、形になった感じで、明確なきっかけはありません。
何を描くにしても仕事で絵を描くのは大変なことなので、どうせなら心から好きなモチーフを描きたい、と常々考えています。
●どのようなものから作品イメージがわきますか?
ファッション誌の切り抜きやお店のパンフレットなどを集めていまして、それを使ってよくコラージュを作ります。そこで思いがけないおもしろいインスピレーションを得ることがあります。
また、日常的に家に花を飾っています。仕事部屋やダイニングテーブルなどでお気に入りの花をふと眺めるとき、花の手入れをするときなどにもアイディアがふってきます。美しい色の響き合いに心が動きやすいのもしれません。
●女性を描かれることが多いように思いますが、男性を描きたくなるときはどんなときですか?
人間としておもしろいな、と思えたり共感できる瞬間に出合ったとき、何か心に訴えかけてくる葛藤やドラマがあるときに、描きたいなと感じます。
SNSなどを眺めていて、すごくかっこいいな! と思う写真などあるとスケッチしたくなるのですが、やはり人間味を感じる時に初めて強く描きたい!と思います。
いくら素敵(すてき)な方でもあまりにキラキラしてる方は、一体どう絵にしたらいいのか戸惑ってしまう…というのが率直なところです。
女性は、自分が女性なぶん、葛藤や人間味は身近なモチーフなので、一番描きやすく、モチベーションの高い題材なんだと思います。
●ぜひ“マツオヒロミ風”に浴衣を着たい!
おすすめの小物や、帯×浴衣の合わせ方を教えていただきたいです!
帯締(おびじめ)と帯留(おびどめ)を使うのはいかがでしょうか。浴衣は、浴衣と帯のみで構成されるので、アイテムを増やして着物風に着るとレトロ感が出しやすいように思います。
色味はレトロな色調や和の色を選ぶと良いように思います。
柔らかいくしゅくしゅの兵児帯(へこおび)に麻っぽい素材感の浴衣などを合わせて、そぼくな素材感を楽しむのも素敵ですね。
柄は銘仙風(※)のものがレトロ感を楽しむのにおすすめです。カンカン帽やバスケットも小物として取り入れてみるとレトロ感を楽しめると思います。
※銘仙…大正・昭和の初めごろ、庶民に人気のあった織物。当時のものは華やかで斬新な柄も多く女学生の通学にも着られた。
【子育てと仕事について】
●ご夫婦と5歳の娘さんの3人家族でいらっしゃいます。
平日・休日の過ごし方を教えて下さい。
平日は朝4時過ぎに起きて、5時ごろから7時まで机に向かいます。大体1日の予定を立てたり読書をしたり練習にあてたり、インプットに時間を使うようにしています。
娘を保育園に送り出して家事をし、9時から夕方迎えに行くまでがメインの作業時間です。
夕方5時からは基本的に仕事はなしで、娘の世話や家の用事などして、早めに寝るように心がけています。
ただ、子どもがいるとなかなかこの予定通りにはいかないので、夫と協力しあいながら臨機応変にやっています。
休日は家族と出かけ、できるかぎり自然と触れ合うようにしています。パソコンばかり見つめている毎日なので、休みの日は季節の花や海を眺めたりしています。
●ご結婚や出産が、絵や作家活動に与えた影響はありますか?
娘が大きくなるにつれ、女の子をエンパワーするような作品を描きたいなと思うようになりました。
前は女の子を描きながらも、どこか自分語りのようなことばかりにこだわっていて壁を感じていました。だけど今は、誰かのために描きたい気持ちがあり、モチベーションに幅ができたのがうれしいです。
●子育てと仕事の両立でつらかったとき、どのように乗り越えてきましたか?
予定通りにいかないことが多くて、つらいと感じることが多いです。あとは自分の時間がグッと減りましたし、娘の想いに寄り添っているうちに「私は何が好きなんだったっけ?」となることも少なくないです。
誰かの人生じゃない、私は私の好きを貫くぞ、と決めてイラストレーターになったので、この変化に直面したばかりのころは正直、結構つらかったです。
私は生真面目な方で、楽しいことよりストイックなことに引っ張られがちで、もともと「好き」や「楽しい」という事柄の新陳代謝は鈍い方です。
移り変わる世界に生きていながら、変わらないままでいることは、つまり「古くなる」ことだと思います。強制的に子ども中心の生活になったわけですが、今は自分だけの世界にこだわる時期ではなく、新しい世界を楽しむタイミングなのだと、思い直しました。
私は娘が産まれるまでディズニー映画を食わず嫌いしていたのですが、一緒に観てみたら技術的なクオリティーの高さや華やかな世界観に圧倒されました。
そのように、ひとりだと知り得なかった新世界へ娘に連れて行ってもらっているようです。娘のおかげで私も変わることができるんだなと実感する日々です。
●絵を描くことを仕事にしたい人へ、また夢をあきらめきれていない人へ、ぜひ背中を押す言葉をお願いします。
私は目標通りの夢をかなえたわけではく、思い通りになったわけでもないです。もともと漫画家を目指していましたので。
しかし思った通りの結果じゃなくても、進む方向さえ夢の方向を向いていれば、その過程そのものがその人にとって充実したものになっていくんじゃないでしょうか。
夢は目的地ではなく、羅針盤である、という言葉を最近目にしまして、その通りだと思いました。
私は大学時代に絵を描く仕事をする、ということを決めてから、たくさん失敗しましたし挫折もありました。それでも同じくらいうれしいこともあったし、信頼できる仲間もできましたし、成長することもできました。
当初の夢の「漫画家」よりもっと適正のあるイラストレーターになったのも、まずは夢に向かって一歩踏み出し、そして挫折があったからこそです。もしかしたら、そういう紆余曲折の過程こそが「夢を叶えている」ということなのかもしれません。
夢を持っているのなら、自分を導く道を自分の中に持っているということですよね。私も、もっといい絵が描きたいなと、小さなアクションを繰り返す試行錯誤の日々です。
私自身そうですが、努力の末に思いがけないところに着地したっていいと思います。やっぱり積み重ねの末に行き着くので、そんなに関係ないところには着地しないと思うし、その道を歩んでいる、というだけでも自分の人生をしっかり生きている、と言えるのではないでしょうか。
聞き手=りびえーる編集室(河)