SPECIAL TOPICS
島根の山の恵み いのちを生かす~ジビエ肉やクラフト製品として~ 後編
野生鳥獣による農作物の被害が深刻な問題となっている中、島根県では近年、イノシシや鹿を捕獲し被害を軽減するとともに、駆除した野生鳥獣をジビエ肉や革製品などの資源として有効活用する取り組みや、狩猟技術や解体などのノウハウを次世代へつなげようとする活動が各地で行われている。貴重な「いのち」を大切にして地域づくりに活かしていく方法や、山の未来について考える。(前編から続く)
横山茂和さん 出雲ジビエ工房&里山キッチン須佐屋 出雲市
山を次世代へ。自分の知識伝える
出雲市佐田町で豆腐店を営む横山茂和さん。2019年に野生鳥獣対策の一環として完成させた食肉解体処理施設「出雲ジビエ工房」で、イノシシや鹿などの解体作業から、ジビエ肉を使った創作料理の提供、食肉やハム・ソーセージの販売まで手掛けるほか、山に猟に出ることもあるなど、その活動は多岐にわたる。
出雲圏域で捕れた鹿を「出雲鹿(Ⓡ)」として2013年に商標登録した。「鹿は食べられる部分も少ないし、山から下ろすのも大変。ほとんど有効活用されていなかった。やっぱり殺したものは食べてあげないと。でも、慣れていないものは食べ方もわからないでしょ?」と横山さん。横山さんの作る多彩な料理の数々からは、ジビエの魅力が伝わるはずだ。
後継者の育成にも取り組む。ストレスを与えずに仕留める方法、血抜きやさばき方、商品に価値を付ける方法など、教えてほしいという人がいれば自分の知識は余すことなく教えていくつもりだ。ジビエに関するノウハウを伝えることで良質なジビエ肉を製造し、おいしく調理・加工することでファンを増やす。ジビエ肉から利益が生まれれば、山に興味を持つ若い人が増えて、山が次世代へとつながっていく。横山さんの山を守る取り組みは続く。
◎里山キッチン 須佐屋の ジビエ創作料理
ランチ3,000円~、ディナー5,000円~
※1日1組限定。完全予約制で4~10人で受け付ける
※写真はメニューの一例です
弐百円 松江市
「捕られたイノシシ、一頭でも埋めない」
松江市地域おこし協力隊だった佐藤朋也さん、森脇香奈江さんが立ち上げた会社「弐百円」。有害鳥獣捕獲期(3月~10月)に捕られたイノシシの約9割が土に埋められている現実から、「一頭でも埋めない」を原点に、松江市八雲町で有害鳥獣捕獲期に捕らえられた夏イノシシを使ったミンチや、フランクフルトといった加工品の開発・販売を行う。佐藤さんは「有害獣として捕獲されるイノシシのことを多くの人に知ってもらい、食べてもらいたい」。管理栄養士の資格を持つ森脇さんは「イノシシ肉は豚肉に比べてビタミンB12は3倍、鉄分は4倍と栄養価も豊富。イノシシ肉のおいしさと価値を再認識してもらえれば」と話す。
イノシシ被害がなくなるためには、農家、行政、猟師、解体処理施設、消費者・飲食店をつなぐ「イノシシサイクル」がうまく働くことが重要だという2人。「捕る側の苦労を知って商品を売りたい」と狩猟免許も取得し、高齢化がすすむ猟師の「狩猟」や「解体」の技術を若い世代に伝えるクッション役を担うほか、鳥獣の侵入防止柵の張り方や、イノシシ肉に価値をつけて販売する方法など、自分たちが得たノウハウを伝える活動も行っている。「命を奪ってしまう立ち位置だが、農家、猟師、食べてくれる人、いろいろな人に喜んでもらいたい」。2人の挑戦が地域のイノシシに関わる人々をつなげていく。
松江ジビエ 亥國之味(いこくのあじ) 各1,296円
イタリアン、フレンチ、中華—。松江市八雲町で解体処理されたイノシシ肉をぜいたくに使用。松江の名店シェフが作りだした本格ジビエ料理が家庭で楽しめる。
八雲猪肉生産組合のミンチやスライスなどのイノシシ肉(精肉)も販売。
商品購入は弐百円オンラインショップ https://nihyakuyen.stores.jp/で。
亥國之味は各店舗の店頭、一畑百貨店出雲ゆめタウン店でも購入できます。