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創る◇◆◇人形作家 松本輪加子さん【松江市】

人形に心を入れ 見る人を笑顔に
「私の人形を見た方が、自分の生活に照らし合わせて『自分もこうだったのを思い出しました』などと言ってくださることが喜び」と話すのは、人形作家の松本輪加子さん。仕事の傍ら夜間や休日に制作を続け、2024年日本伝統工芸展の人形部門で初入選を果たした。
作品は、和紙と胡粉(ごふん)を練り込んだ粘土で作る土台に典具帖紙(てんぐちょうし)という薄い和紙を重ねて制作する「紙塑和紙貼(しそわしばり)人形で、主に女性の日常の姿をテーマにしている。
人形制作のきっかけは2002年。松江で開催された人形作家・石井美千子さんの「昭和のこどもたち」展。見る人みんなが笑顔になる人形に魅力を感じ、同市宍道町の人形教室にて吾郷江美子さん(紙塑人形作家・日本工芸会正会員)に師事し、人形制作を学ぶ。「吾郷先生に作る楽しさを教えてもらった。先生のおかげで今がある」と感謝する。
作品のテーマは一瞬で思い浮かぶものの、その後が簡単ではない。関連したさまざまな事柄を調べ、よりテーマを具現化できるように努め、小道具も手を抜かず細かなところまで気を配る。思い通りの色を求めて、顔料で和紙を染めたり、何色かを貼り合わせたりすることも。
人形を作るようになってから「周りをよく観察するようになった」松本さん。観察を通した気付きも作品に生かされる。
制作の際に心がけていることは、人形に心を入れること。心が入った人形は、何かを語りかけているようだ。特に顔と手先の表情を大事にし、目や眉、口は絵の具で描くが、「眉が難しい」という。
時間がたつのも忘れてのめり込み、「もがきながらで苦しくもあるが、好きなことだから大変ではない」と笑顔で話す。試行錯誤の末に迎える完成のとき、「腕はまだまだだけれど、自分なりの達成感を感じる」。
昨年の日本伝統工芸展入選はこれまでで一番大きなターニングポイントになった。「たくさんの人に知っていただき、励みになった。おごることなく気を引き締めて、より精進していきたい」と研さんを続ける。
今後は、紙塑和紙貼人形の制作をしながら、「地域に根差した昔ながらの人形のようなものも手がけてみたいと話し、新たな創作の扉が開こうとしている。

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