読みもの
タウントピックス♪ 「お宮さん」「蒸汽船」 尾野真弓さん(松江市)
松江の郷土玩具を復刻
「お宮さん」「蒸汽船」
全国的に郷土玩具が注目を集めている昨今。松江にも、こんなかわいい玩具があることをご存じだろうか。江戸時代から作られ、途中復刻してはまた途絶えてを繰り返していた郷土玩具が、昨年復刻されたと聞き、復刻を手掛けた袖師窯の尾野真弓さんを訪ねた。
「松江のお宮さん」は、江戸初期から松江で作られてきた郷土玩具。一年の幸福をつかさどる来訪神とされる歳徳神の神輿(みこし・お宮)をモチーフにしたもので、「松江の蒸汽船」は、明治期、鉄道が普及する以前に外海から中海を通って宍道湖を結ぶ水路を往来した蒸気船への子どもたちのあこがれから生まれたという。
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いずれも、大正時代に作り手を失い途絶えていたが、昭和初期に松江市の長岡名産堂のもと、郷土玩具研究家・奥原国雄さんの指導を受け、佐太神社の神職・宮永千秋さんによって復刻された。しかし、宮永さんが亡くなられると、再び途絶えてしまった。そして、昨年、尾野さんが袖師窯の仕事の傍ら復刻した。
導かれるように
復刻を手掛けるきっかけを問うと、「導かれるようにとしか言いようがない」と振り返る。ものづくりが好きで美術系の学校で学び、デザイナーとして仕事をしていたが、2005年に結婚を機に袖師窯へ。民藝の世界に入り、地元の手仕事に興味を持ち、地元の歴史や文化を学ぶなかで郷土玩具にひかれた。
お宮さん、蒸汽船を見た当初は「色、形がかわいいなー。今は作られていないんだー。誰か作らないかなー」と思う程度。その後も作る人は現れず、「材料について調べてみよう」とふと思いたったことが、運命の歯車を動かした。
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実は、これら玩具の材料は、檜(ひのき)のヘギ板(樹齢数百年の天然木を手で割って作る。目が詰まった木の正目を使用)の端材で、今では島根で手に入らなかったことから国産で探したところ、岐阜県の手割り檜板職人の三尾邦男さんが手割りし、福島県の漆刷毛(うるしばけ)職人の内海志保さんが作る漆刷毛の端材を使えることになった。
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とにかく楽しい
長岡名産堂の長岡欣子さんとの出会い、自身の子育てが落ち着いたタイミング、材料も手に入る縁に恵まれ、トントン拍子で復刻へと進んでいった。試作品を自分で製作しているときにとにかく楽しく、完成時、とてもうれしかった。
心の中に喜びが生まれたのと同時に、この郷土玩具に宿る松江の歴史や、ひいては日本の手仕事やそれを支える職人さんたちのことを伝えていきたいという責任のようなものを感じ、復刻を決意した。
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そのまま伝えたい
製作手順は、端材をノコギリとナタで各パーツに仕上げ、組み立て、着色して仕上げる。それぞれに考えられた寸法、デザインになっていて「感心した。長い歴史の中で完成されたデザインをそのまま伝えていきたい」と尾野さん。
大変なのは色。昔ながらの色にしたいと、岩絵の具と胡粉(ごふん)で着色している。扱いに苦労しているが「楽しい」と笑顔が輝き、さらに「ベンガラにもチャレンジしたい」と続けた。
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県内外の郷土玩具ファンから寄せられる、復刻し「ありがとう」「うれしい」などのメッセージも励みになり、土地の歴史・文化を濃縮した郷土玩具を通して、松江の良さを伝えていけるのが喜びとなっている。
長岡さんも、お宮さん、蒸汽船の復刻に、「忠実に再現されていて、残していってもらえることになり本当にうれしい」と心から喜び、尾野さんを応援する。
「松江の郷土玩具に目覚めたので、今後、ほかの古玩の復刻や新作の普及も取り組みたい」と話した後、長岡名産堂に残るさまざまな郷土玩具を熱心に見ながら、長岡さんの話に耳を傾ける尾野さんの姿があった。
次なる復刻玩具を目にする日が楽しみで仕方ない。
販売取扱店
●長岡名産堂 (電話 0852‐21‐0736)
●安部榮四郎記念館 (電話 0852‐54‐1745)
●出雲民藝館 (電話 0853-22-6397)
●袖師窯 (電話 0852-21-3974)