読みもの

読みもの

創る<漆工芸絵師 武田 純さん>(松江市)

八雲塗とガラス絵の手法を融合
グラスに描かれた漆絵の上品なつやと美しさに心を奪われた。作者は、八雲塗の匠でもある漆工芸絵師・武田純さん(60)。漆工芸作家だった父・大燈さんから漆工芸全般を学び、絵画は独立美術審査員でもあった油彩画家の故山中徳次さんに師事した。

山中先生が「筆の置きどころがある」と話されるも、若い頃はよく分からず、お茶の先生からの干菓子盆の注文に、技術を見せたい、これもできるこれはどうだと張り切って、やり過ぎてしまったことも。しかし、失敗を重ねながら少しずつ意味が理解でき、今では引き算の美学を覚えた。

今から25年ほど前、ワイングラスに漆で絵を描いてほしいと依頼され、伝統技法通りにやってみたが、漆がはがれ、強く固着させることができなかった。「知っているとできるは、こんなに違うのかと思い知った」と振り返る。

その後数年にわたり試行錯誤を重ね、八雲塗の絵画的要素をガラス絵の技法で描く独自の手法を完成させ、「八雲びいどろ」と名付けた。

立体に描くが、内側と外側の絵柄を合わせた一枚の絵画として表現し、グラスに描かれた絵の色が使うほどに変化していくような仕掛けも。

「八雲びいどろだけはおやじに見せたかった。もし生きていたらなんて言うだろうかと思う」と、武田さんは手の中のグラスを見つめた。

亡き父を思いながら、自身が生み出した新しい表現・技にとどまることなく、これからも歩み続けていく。

プロフィール

たけだ・じゅん 1963年生まれ。

83年から黄綬褒章受章した漆工芸作家の父・武田大燈さんから漆工芸を学び、85年から絵画を油彩画家の山中徳次さん(独立美術審査員)に師事。90年油彩画と漆彩画の融合を図る新しい表現技法を創案。96年島根県優秀技能者として認定。2000年二代大燈へ。15年八雲びいどろと名付けたガラス漆器を発表。

問い合わせは、漆工房大燈・武田さん(電080-622-5656、メールtakeji3857@gmail.com)へ。

一覧へ戻る