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創る【出雲市】〈陶芸家・山本 達長さん〉

伝統的な技法にとらわれ過ぎず可能性をさぐる

緑色と特徴ある形や文様などが印象的な織部(おりべ)焼の器を制作している紫翠窯(しすいがま)の山本達長さん(44)を訪ねた。桃山時代から続く織部焼。山本さんは、伝統的な技法を土台にしながら、「伝統にとらわれ過ぎず、新しいものを否定しないで可能性をさぐっている。伝統と今風のハイブリッドと笑顔を見せる。

 

自宅に祖父が建てた茶室があり、さまざまな美術品を目にしていて興味はあったものの、特別に陶芸を目指していたわけではなかったが、大学卒業後、祖父の勧めで岐阜県の瀧口喜兵爾さん(故人・可児市重要無形文化財「織部」技術保持者)に弟子入り。修業期間は4年。その間、土を練ったり、釉薬(ゆうやく)の準備をしたり、片付けをしたりと、師の仕事が滞らないように必死にこなす日々。修業期間の終わりが近づき、ひと窯分の“卒業”作品を制作することになる。制作方法についてほぼ教わったことはなかったが、なんとなく毎日見るとはなしに師の制作中の姿勢などが記憶にあり、思い出しながら作品を完成させた。

 

2007年帰郷後、祖父の茶室「紫翠庵」の隣に築窯し、「紫翠窯」と名付けた。以来17年。今では、全国各地で常連客が展示を待っている山本さんも、初めのころはなかなか作品が売れず、諦めかけたこともあったが、「修業時代から先生に、とにかく続けなさいと言われ、続けてきた」。

「先生は、桃山時代の技法で作られていて、本物も見せてもらった。先生のクオリティーを間近で見ていたので、そのクオリティーを目指し、雑な仕事はしたくないとの思いは今も変わらない。しかし、築窯当初は「ものすごく丁寧に、真面目過ぎたかもしれない」と振り返る。例えば器の厚みがどこもきっちり、均等でないと気になっていたが、このごろは、時間をかければいいというものではないと、自然な流れを生かすようになり、一つの器として全体を見るように視野が広がり、「味があるものになったのかも」という。

 

主に日本料理店などで使うことの多い織部の器だが、「伝統的な技を生かしながら、一般的な器も手掛けたい。他の窯元さんとも情報交換をして、お客さんに求められる器が作れたら」と、ハイブリッドな作陶は続く。

プロフィール

やまもと・たつなが 1979年生まれ。

大学卒業後、2003年から岐阜県の瀧口喜兵爾さんに師事。2007年に出雲市に帰郷し、築窯。「紫翠窯」と名付ける。織部焼を中心に制作を手掛け、全国各地で展示・販売を行う。常設販売は平田本陣記念館ミュージアムショップで。事前連絡あれば、直売対応可。

問い合わせは、電話(090-7773-6398)、メール(tatsunaga1979@gmail.com)、インスタグラム(@tatsunaga_yamamoto)DMで。

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