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「八雲を魅了した『影ある美』~小泉凡氏インタビューーぶらっと旅ガイド「あ・るっく2025春」<PR>

松江ゆかりの文豪・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン、1850~1904年)の妻・小泉セツをモデルにした連続テレビ小説「ばけばけ」が、2025年秋からNHKで放送されます。
八雲とセツのひ孫で、小泉八雲記念館館長の小泉凡さんに、八雲が愛した山陰の魅力や八雲とセツの暮らしぶりなどを聞きました。
2人が生きた時代に思いをはせながら、ゆかりの地巡りをしてみるのはいかがでしょうか。
八雲を魅了した「影ある美」
こいずみ・ぼん 1961年、東京都出身。小泉八雲、セツのひ孫に当たる。成城大で民俗学を専攻し87年に松江へ赴任。高校教員、学芸員を経て島根県立大短期大学部教授。現在は名誉教授。小泉八雲記念館館長。主著に『民俗学者・小泉八雲』『怪談四代記-八雲のいたずら』など。
八雲が伝えたこと
―1890年8月、八雲は初めて松江の地を訪れます。
八雲はまず、「音」で松江を感じました。夜明けとともに聞こえてくる寺の鐘の響き、神様を拝みかしわ手を打つ音、物売りのにぎやかな声。目が不自由だった八雲は五感が研ぎ澄まされていたのでしょう。まずは松江の人々の日常の「音」に新鮮さを覚えました。こうしたエピソードは著書「知られぬ日本の面影」の中でつづられています。
目で見たものについては「影のある美しさ」を気に入りました。宍道湖の夕日を何度も見に行っています。夕時に山際に雲が現れ、その雲の中へ沈んでいく太陽の姿を、「夢の中に差す光のように穏やかだ」と表現しました。西洋のギラギラとした光ではなく、どこか輪郭のはっきりしない影のある光に、美しさを感じたのだと思います。
こうした美しさを、八雲は「ゴーストリー」という単語で形容しています。知られぬ日本の面影ではゴーストリーが35回も使われます。単に霊性や幽霊という意味ではなく、輪郭がなく「ぼやっ」としているけれど美しい風景を表現するときにも使用しました。宍道湖に霧が掛かる中で行われるシジミ漁も八雲に言わせてみれば「ゴーストリー」なのでしょう。
―八雲は松江を拠点に山陰のさまざまな地を訪れました。旅の中で日本人独特の信仰文化に魅せられていったといいます。
八雲が不思議に思ったのが、町を歩いていると至る所で人々が神に手を合わせていることでした。それも、朝日に手を合わせる人もいれば、杵築(出雲市大社町)の出雲大社に向かってかしわ手を打つ人もいます。
八雲は松江時代に2回、神戸時代に1回、出雲大社を訪れています。松江時代の2回目の訪問はなんと15日間にも及びました。15日間、神事を見たり古い書物や絵を鑑賞したりして、神道や出雲地方の信仰文化を頭ではなく肌で感じたようです。
西洋や中東の宗教のように聖典があるわけでも戒律があるわけでもないのに、熱心に神に祈りを捧げる日本人の姿から「この信仰心は日本人の血脈に生きているもの」だと悟ったといいます。
―八雲が作品を通して現代を生きる私たちに伝えたいことは何でしょうか。
「つながりの感覚」だと思いますね。八雲の作品は、日常や自然がテーマとなっているものが多いです。非日常のように思われる「怪談」も実はそうです。
例えば、人と自然、生きている人と亡くなった人、現実世界とそうではない世界、東洋と西洋。こうした一見、対比するかのような事象や存在はどこかでつながっており、「すべての出来事は人間世界だけで解決していないのだ」と伝えたいのではないでしょうか。
近年、八雲の怪談がアイルランドやイタリアでアートとして表現され、多くの人が関心を寄せています。分断や戦争といった悲しいニュースがなくならない現代においてこそ、この「つながりの感覚」は大事にされるべきだと感じます。
妻・セツの支え
―ドラマの主人公のモデルとなったセツは、八雲にとってどのような存在だったのでしょうか。
妻であり、子の母であるのはもちろん、「文学創作上の最重要パートナー」だったという表現が一番良いのではないでしょうか。東京での生活では、セツが神田や浅草の古本屋を巡って奇談集を探し歩きました。セツは、本を一通り読んだ後に八雲が好みそうな話を選りすぐり、八雲が理解できるように助詞を省いたり語順を変えたりして怪談を聞かせたのです。
また、文章の構成にも関わりました。八雲が出版社に送った原稿が送り返されてきた際に、セツがより雰囲気の合う言葉を提案し、実際に採用されたことがあります。2人は共同著者と言ってもいいほどですね。
もともと文学少女だったセツですが、生活が貧しく学歴にコンプレックスがありました。八雲の創作活動を支える中で、自分のやりたかったことができ、かつ、夫の役に立っているという喜びを感じていたと思います。世界一の「パパさん」「ママさん」と呼び合っていた2人からは、お互いへのリスペクトを感じます。
―ドラマで楽しみにしているポイントはありますか。
主役のお二人と昨年秋にお会いしました。すでに夫婦のような空気感で、すてきだなと思いました。夫婦の演技がすばらしいものになることを今から期待しています。
また、脚本家のふじきみつ彦さんが描くコミカルな夫婦の日常が楽しみですね。 セツの後年の過ごし方に注目しています。実はセツの後年についてはほとんど情報がないのです。朝起きたらセツは何をするのだろう、どのような一日を送るのだろう。そんなことを想像しながら放映を心待ちにしています。
ゆかりの地
―ドラマの放映が決まり、ゆかりの地に注目が集まりそうですね。八雲ゆかりのおすすめスポットはありますか。
八雲は海が好きな人でした。中でも日本海に面した島根半島にある、新旧二つの洞窟「加賀の潜戸」(松江市島根町加賀)はぜひ訪れてもらいたい場所です。八雲は二つの洞窟のうち、幼くして世を去った子どもの魂が集う場だと言い伝えがある「旧潜戸」に特に心が引かれたようです。海と人間の関係性や亡くなった人の魂について考えを巡らせたのだと思います。
このほかにも、神魂(かもす)神社(松江市大庭町)や月照寺(松江市外中原町)もおすすめです。
当時の八雲になった気分で、朝早く起きて松江の町を散歩してみるのもいいかもしれません。宍道湖のシジミ漁のじょれんが水を切る音は松江独特ですからね。そして夕方には、雲間から差し込む宍道湖の「影のある美しい」夕日を眺めてみてほしいです。
小泉八雲記念館
住所:島根県松江市奥谷町322【MAP】
電話:0852-21-2147
営業:4〜9月9:00~18:00、10〜3月9:00~17:00
料金:大人600円、小・中学生300円 【2館共通券】(小泉八雲記念館・小泉八雲旧居) 大人800円・小・中学生400円
休み: 年中無休(臨時休館 年5回程度)
HP:こちらから
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