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山陰ラーメン事情 Vol.3
山陰ラーメン事情 Vol.3
こだわりの店が続々
第1回は「松江クラシック」や「山陰ちゃんぽん」などの島根のラーメンの歴史について、第2回はバリエーション豊かな、新しい流れのラーメンを提供する新進気鋭のお店を中心に紹介したが、今回は牛骨や豚骨などのスープに使うメイン食材や、醤油や塩などの調味料などにこだわるお店に焦点を当てて紹介したい。(松村 隆久)
■掲載店一覧
住所:鳥取県東伯郡琴浦町浦安189【MAP】/℡0858-52-2817
住所:琴浦町赤碕1095【MAP】/℡0858-55-0404
住所:米子市西福原9丁目21-15【MAP】/℡0859-22-9405
住所:米子市新開6丁目3-3【MAP】/℡0859-31-8681
住所:松江市上乃木4丁目21-18【MAP】/℡0852-25-1870
住所:松江市殿町333-4【MAP】/℡0852-23-2117
住所:松江市学園南2丁目5−29【MAP】/℡0852-20-6260
住所:松江市東津田町1133【MAP】/℡0852-23-8840
住所:松江市学園2丁目27-28【MAP】/℡0852-23-0700
地元で長く愛される 鳥取牛骨ラーメンの老舗「すみれ食堂」(琴浦町)
鳥取県中部の鳥取牛骨ラーメンの老舗と言えば、1949年創業の「香味徳・赤碕」が有名だが、今回、私がおすすめしたいのは「すみれ食堂」。創業60年以上の老舗で、スープは多めの牛ヘット(牛脂)が芳ばしく香り、醤油の旨味が効いたキレとコクのあるうまさ。牛骨系スープの中では醤油を前面に出すタイプで、「男前」なスープだ。麺は中細の低加水でシコシコとした食感で、スープとの相性も良い。基本のラーメンはチャーシューではなく、脂の少ない煮豚がのるのが特徴。三代目店主・山根さんの「いらっしゃい」「こないだはどうも」「ありがとうございます」との声が店内に響き、仕事の合間のサラリーマン、作業着姿の人、小さなお子さんを連れた家族、さまざまな人が同じようにラーメンを啜っている風景は人気老舗店ならではだ。
歴史を感じる食堂の豚骨ラーメン「堂後食堂」(琴浦町)
1953年創業の老舗食堂。情報社会となり、今や県内外からお客さんが訪れるようになったが、地元でしか知られていなかった小さなお店。元々は先代のお姑さんが米子で習ってきたというラーメンで、シンプルで香りある豚骨出汁100%に塩味のスープ。一口サイズのチャーシューがぎっしりと並べられて、青ネギと小切のメンマがトッピング。麺は中加水の中細ちぢれ麺。小ぶりのチャーシューといっしょにかき込むと美味だ。生たまごをセンターに落とした「スペシャル中華」は、豚骨スープと生たまごの甘みが合わさることでスープがマイルドに変化し、さながら豚骨カルボナーラといった味わいになる。ラーメンと数坪の狭い店舗は歴史を感じさせ、気さくな女将が先代のお姑さんの味を半世紀以上にわたり守り続ける。現在は娘さんもお手伝いされているが、ぜひ存続を願いたいお店。
鳥取牛骨ラーメンの祖は貫禄の一杯「満洲味」(米子市)
古い記述(新聞広告)に残されている唯一のお店で、鳥取牛骨ラーメンの元祖と言われる。創業は1946年で、先代が当時の満州で味わった麺料理を元に作り上げた一杯だという。牛骨をメインに鶏ガラ、豚骨をブレンドしたスープで、表面を厚く覆う牛脂、その下のスープは濃口醤油でやや濁っているのが特徴。脂のコクと醤油と動物系、そして魚介系の旨味が混然と押し寄せる感じで、貫禄ある癖になる味わい。麺は加水の低い中太のストレートで、シコっとした食感が力のあるスープと相性が良い。チャーシューは肩肉で、スープの強い旨味に対して薄味であっさり感を演出。レシピが伝播する中に和風食堂系テイストと融合し、あっさり系が多い牛骨ラーメンだが、元祖はこってりとして力がありラーメンらしい顔を持つ。
奥出雲古式醤油を使った無化調スープ「麺屋 無双」(米子市)
2004年開業。米子でニューウェーブ系の草分けと言えるお店。店主の川島氏は脱サラし、我流で試行錯誤の末に完成させたラーメンで人気店へ。新メニューとして提供を始めた「牛骨ラーメン」の店としても知られるようにもなっているが、その原点は奥出雲井上醤油の古式醤油を使った「古式醤油ラーメン」。牛骨、豚骨、鶏ガラの動物系出汁と魚介系出汁を合わせ、化学調味料を使用することなく素材の旨味を引き出した無化調ダブルスープ。古式醤油の生み出すコクに、動物系出汁の旨味、そしてふんわりと香る魚介系、すべてがバランスよくマッチした一体感がある旨さの一杯。基本の麺は多加水中細ちぢれ麺。好みで平打ちストレート麺も選択できる。他にも人気メニューとして「塩ラーメン」「ごっつ魚ラーメン」「味噌ラーメン」などあるが、全て無化調。人気店になった今でも常に改良を心がけており、味の研鑽も怠らない。
頑固なまでに塩ラーメンにこだわる「ラーメン長さん」(松江市)
松江人に好きなラーメンを尋ねると、意外に「塩ラーメン」と答えが返ってくることが多い。2001年に「頑固一徹 塩らーめん」として開店、「ラーメン長さん」に店名が変わった後も、塩好きな松江人に支持される塩ラーメンの人気店。山陰で初めてカップラーメンとして発売された店でもある。アルカリイオン水を使用した豚骨と鶏ガラベースのスープは、すっきりとした中に塩のパンチが効いた味わい。ほろっと崩れる柔らかいチャーシューや、極太のメンマなどのトッピングもボリュームがあり、満足感が大きい。「赤にんにく」「黒にんにく」「タマネギ」「魚介ペースト」などの味変調味料や、基本の塩ラーメンをベースにした「レモンラーメン」や「カレー風味ラーメン」など10数種類のバリエーションがそろい、毎日来店しても飽きることはない。中でも「まっ茶風味らーめん」は、お茶処・松江にちなんだ一杯で一度味わってみてほしい。
鶏白湯に魚介だし醤油を使った看板ラーメン「らーめん とんてき 大翔」(松江市)
店主の松本さんは、県外で飲食店を長年経験した後、ラーメン好きだったことから2010年に地元の松江でラーメン店を開業。看板メニューの「大翔らーめん」は、大山どりの鶏ガラに香味野菜などを加え、じっくり煮込んで仕上げたライト鶏白湯。4種類の醤油にサバやウルメイワシ、アサリなど7種類の魚介を合わせた魚介出汁醤油を加え、天然素材にこだわった優しく奥深い味わいの一杯だ。麺もこだわりがあり、県外の有名製麺所から仕入れた平打ち中細麺。提供前に手揉みすることで、手揉みならではのなめらかな口当たりが特徴。研究熱心で「いかすみ醤油らーめん」「納豆まぜそば」「牡蠣チャウダーらーめん」など、新メニューや季節限定メニューの開発にも余念がない。県外での経験から提供する三重県四日市名物の「とんてき」も、ラーメンに次ぐ看板メニューで人気の一品だ。
本場博多の豚骨ラーメンを伝承する「拉麺屋 神楽」(松江市)
創業25周年を迎え、山陰で8店舗を展開する実力店。豚骨ラーメンの本場、博多の有名店で学んだ味を基に、山陰にも合うように改良した本格豚骨ラーメンが味わえる。基本の豚骨ラーメンは「とんこつ 淡」と「とんこつ 濃」の2種類。「とんこつ 淡」は、一昼夜かけて煮込んだ豚骨出汁をベースに和出汁を加えたあっさりとした味わい。「とんこつ 濃」は、豚骨出汁に特製の香味油と辛味噌を加え、さらに深いコクを出した一杯に仕上げている。スープ、基ダシにチャーシューなどのトッピングはもとより、麺にいたるまで全て自家製にこだわっている。2種類の豚骨ラーメンを味わう際は、テーブルに用意された「辛し高菜」「辛もやし」「紅ショウガ」や「生ニンニク」「すりごま」などのトッピングを使い、お客さん各々が自分流の味に仕上げて頂くのが博多風の楽しみ方だ。
トレンドを取り入れた豚骨清湯「中華蕎麦 奨」(松江市)
2010年開業。東京の人気ラーメン店の味を山陰で継承し、魚介系の塩ラーメンや塩つけ麺が人気メニュー。トレンドにも敏感で、近年九州を中心に首都圏でも話題の「豚骨清湯」をいち早く取り入れ、新時代の味「クリアとんこつラーメン」として提供する。透明に澄んだ豚骨出汁のラーメンに乗せるトッピングは、炙りチャーシューのみ。青ネギ、針生姜、柚子胡椒を別皿で提供することでスープに雑味が加わることがなく、クリアな味わいをダイレクトに感じられる。香味油の芳ばしい香りが鼻に抜け、癖のないスッキリとした旨味と塩味がジワッと口に広がり、シンプルでクリアな美味さ。白濁する豚骨ラーメンとは一線を画する。九州の豚骨白湯も古くは清湯出汁からの進化と聞くので、ある意味で原点回帰、ネオクラシックなラーメンではないか。松江のクラシカルなラーメンも豚骨メインの清湯系が多いこともあり、松江人には馴染みある味とも言える。
ブラックらしい芳醇な醤油の旨味「麺や 拓」(松江市)
2017年に大阪から店主の地元島根に移転。前回も紹介したお店だが、定番の「鶏×魚(ダブル)らーめん」に並び、醤油にこだわる看板メニューがあるので今一度紹介したい。醤油の濃い味のラーメンと言えば富山のご当地ラーメン「富山ブラック」が有名だが、独自の美味しさを追求した「島根流ブラック」が「麺や 拓」の「醤油ブラック」。煮干しなどの魚介のみを使った出汁に、地元・森田醤油の三年熟成醤油と丸綜の鮪醤油を強めに使うことで、芳醇でブラックらしいキリっとした美味さに仕上げてある。麺も自家製で、大山小麦に米粉を加え、シコシコとした中にもっちり感もある香り豊かな低加水ストレート中細麺。ブラックスープとの相性も良い。塩麹で味付けしたレアチャーシューのライトな肉の旨味がブラックスープを引き立てる。新たに「三年熟成醤油つけ麺」がリリースされ、こちらも人気のメニューとなっている。
近年、山陰でも横浜家系ラーメンや二郎系ラーメン、ニボニボ系、担々麺専門店などの新店が続々とオープンするなど新しいラーメンが味わえるようになっており、紹介したいお店が尽きることがないが、新型コロナウイルスの感染拡大で外食がなかなか難しくなっているのが現状。早く大手を振ってお店に出向いて、美味いラーメンを味わえるようになれば良いと願うばかりだ。
◎文・写真:松村 隆久 (まつむら・たかひさ)
フリーカメラマンを本職とする傍ら、ラーメンの食べ歩きをライフワークとする。自分流のラーメンを求めて、山陰各地をはじめ、関東、関西、九州など県外へも足を運び食べ歩いたラーメンは数知れず。ブログ・麺ある記 山陰―ラーメンの旅―(こちらから)、地元フリーペーパーいかこいコラム、日刊ラズダ執筆中。