SPECIAL TOPICS

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山陰ラーメン事情 Vol.5

「担々麺」と「家系ラーメン」

 ラーメンは一般的に、醤油、塩、味噌に区分されることが多いと思うが、ラーメンマニアは、一定の条件を満たす一群を何々系ラーメンと細かく分類する。

 そんな様々なジャンルの中から、今、全国的にも注目度が高いのは「担担麺」と「家系ラーメン(横浜家系ラーメン)」ではないだろうか。以前の回でも少し触れたが、ここ山陰も例外ではなく、近年は提供店が増えている。

 今回は提供店が多く集まる中海・宍道湖圏域を中心に紹介する。

▽担々麺

 担担麺はもともとスープがない四川料理の一種だが、日本では四川料理の父と称される陳建民(ちんけんみん)氏(赤坂 四川飯店)が日本人向けに改良して、スープと胡麻を加えて考案したレシピが全国に広がったとされる。「日式担担麺」とも言われ、今では本場中国に逆上陸している。

 ミシュランガイドでも東京の専門店が6年連続で星をとるなど、ラーメンのジャンルとして語られることも多く、ここでは王道から変化球までバリエーション豊かに紹介する。

米子市民に愛される“コク旨”「タンタン麺 王福(わんふー)」

 2010年に、有名ホテルなどで修業したオーナーシェフの澤田寿史さんが、研究を重ねた中華料理を提供する「中華料理 王福」として開業。米子市で担担麺と言えば、必ず名前が挙がる店だったが、2022年6月21日に、「タンタン麺 王福」として生まれ変わった。

 看板メニューの「コク旨タンタン麺」は、自家製ラー油の辛味、たっぷりな練り胡麻に隠し味のピーナッツペーストを使ったクリーミーなスープが特徴。富山の製麺所に特注した北海道小麦を使った中太ストレート麺を合わせる。

 ラー油の刺激に胡麻のまろやかな風味で、開業以来変わらぬ人気の一杯。

金胡麻香る「四川担担麺 虎嘯(こしょう)」

 東京や横浜中華街などで修業した店主の西山一也さんが、地元米子市で2019年1月に開業。

 粒が大きく油分が多く濃厚な味が特徴の「金胡麻」を焙煎して使用しているという「四川担担麺」が看板メニューで、あっという間に人気店となった。

 麺は食感の良いストレート中細麺。旨味たっぷりでマイルドな白湯スープに、豊かな金胡麻の香りにナッツが香ばしく、自家製ラー油がピリッと刺激する。センターのミンチをクリーミーなスープにくずしていくと、旨味がさらに増す。

 2020年にオープンした松江店でも味わうことができる。

本流 ‟本家・担担麺”「爸爸(ぱぱ)厨房」

 四川料理をベースにした創作的な中華料理が頂けるお店。オーナーシェフの細木育郎さんは、日本の担担麺(汁あり担担麺)の生みの親、陳建民氏の直弟子であり、本流とも言える「本家・担担麺」。

 じっくり煮込んだ鶏ガラと、アゴなどの魚介の旨味を合わせたこだわりのスープに、胡麻のコクと香りに香ばしい香辛料が香るラー油の辛味を加えることで、後を引く味わいとなっている。麺は加水率高め、しっかりとした食感の中細ストレートで、スープの絡みも良い。

 シンプルなのにコクがあり、奥深い味わいは王道の美味さ。

濃厚な胡麻の香りと太麺にハマる「創作中華酒房 そら」

 店主の西村昌宏さんは、東京の中華料理店「赤坂飯店」で修業後、2004年に松江市で独立開業。修業先の「赤坂飯店」仕込みの「担々麺」が看板メニューだ。

 その「担々麺」は、九鬼(くき)産業(三重県四日市市)の練り胡麻をたっぷりと使ったクリーミーな芝麻醤(チーマージャン)に、自家製ラー油で仕上げてあるが、とにもかくにも芝麻醤は他に比べようもなく濃厚で力強い。全面に胡麻のコクと香りが押し寄せた後に、ラー油の辛味がピリリと刺激する。そして麺は、特注の多加水平打ち太麺を使うことで、モチモチとして濃厚なスープと相性抜群だ。

 この濃厚な胡麻と太麺の強い個性に、ハマるファンが多い。

唯一無二の創作オリジナル系「担々麺 ほうさい」

 店主の高塚憲太郎さんは、札幌と東京での修業を経て2020年に松江で担担麺専門店を開業。東京の修業先の味にアレンジを加えて作り出した唯一無二の創作系で、四川系とは一線を画す味わいが魅力。

 「勝浦タンタンメン」のように胡麻は使わず、ごろっとしたミンチとタマネギを炒めて唐辛子とラー油を加え、鶏ガラ魚介出汁で煮出すことで、香辛料、肉とタマネギの旨味、鶏ガラや魚介などの旨味が幾重にも合わさる。麺は札幌・ 円山製麺の低加水中細ストレート。

 「ひきわり納豆」「大葉」「チーズ」などの追加トッピングもユニークで、オリジナリティーある一杯が楽しめる。

ピリ辛、トマトの旨味まるごと“トマタン”「まつむら屋・松江」

 一般的ではないが、ちょっと変化球的で美味い一杯だ。夏の代名詞といえる真っ赤なトマトを丸ごと1個使った「トマタン」が人気の店。スッキリ塩味の豚、鶏出汁に、トマト、タマネギ、モヤシ、ミンチを炒めて、豆板醤(とうばんじゃん)などでピリ辛に仕上げる。

 出汁の旨味、トマトの酸味と旨味、豆板醤のピリッとした辛味で、バランスの良い夏らしい美味さ。さらにお薦めなのが、追加トッピングのバジルバターだ。バターのコクとバジルのフレッシュな香りが、トマトと絶妙に調和する。

 通年で頂けるメニューだが、やはりこの時期に頂きたい。

▼家系ラーメン

 家系ラーメンは、濃厚豚骨醤油ラーメンのジャンルで、横浜の‟吉村家”から暖簾分けして派生した弟子たちの店の屋号に‟家”の文字を使うことが多かったことから命名されたといわれる。

 現在は吉村家の系譜に限らず、濃厚な豚骨醤油味のスープに太麺、鶏油を香味油に使い、チャーシューとほうれん草、海苔をトッピングするスタイルのラーメンを総じて、そう呼ぶようになったという。

 全国的にも増えているが、近年は山陰でも提供店が増えて定着しつつある。

山陰の横浜家系の草分け「はし友ラーメン」

 2011年創業。山陰ではまだ家系ラーメンが知られていなかったころに、いち早くそのスタイルを取り入れた草分け的な店。県内外のラーメン店で経験を積んだ店主の橋本勇さんが、家系ラーメンを食べ歩いたのちに、独学で作り上げた。

 鶏油の甘い香りに、ガツンとくる醤油とクリーミーで濃厚な豚骨出汁。麺はモチモチの多加水平打ちストレート太麺。肩ロースのチャーシューに、ほうれん草と海苔。味、スタイルともに、紛れもない家系ラーメンだ。

 関東風の濃厚豚骨魚介つけ麺も創業以来の人気メニュー。

本場の人気店が監修「横浜家系ラーメン 伯耆家」

 関東と米子市内で数店舗を展開する「丿(へち)貫(かん)」の系列店として2020年4月、米子市にオープン。「王道家」直系の横浜家系の人気店「とらきち家・横浜」監修の一杯が頂ける。

 濃厚だが割とすっきりとしたスープに醤油が濃いめで、ライスありきの組み立て、鶏油の甘い香りが家系ならでは。麺は170gで、食感のシッカリとしたやや縮れた平打ち太麺。トッピングは肩チャーシュー2枚、ほうれん草、海苔。スモークされた香ばしいチャーシューは、直系の流れを汲む本格スタイル。

 ライスとの相性も抜群で本場ならではの味が楽しめる。

店主の思いを込めた濃厚スープの一杯「ラーメン村井村」

 2021年1月にオープン。「ラーメン七福・米子」店主の村井康浩さんの地元が横浜で、子どものころから慣れ親しんだ家系をいつか米子で、との思いから開店させた。

 試行錯誤を重ねて完成させたラーメンは、着丼と同時に鶏油の甘い香りが鼻をくすぐる。スープは長時間かけて炊きだされていて、とろみを感じられるくらいに濃厚だが、昆布の旨味も利いていて、とがりがなくまろやかな味わい。横浜・丸山製麺のストレート太麺を使うが、モチモチとした食感と麺長が短いところに、家系らしさを感じる。

 低温で長時間燻製したチャーシューがフレーバーで本格的な一杯となっている。

松江市民待望の家系ラーメン「シノカンnoodle」

 第2回で紹介した「ラーメン篠寛・出雲」の系列店として、2021年7月松江市にオープン。店自身は「横浜家系ラーメン」とは謳(うた)っていないが、濃厚豚骨醤油出汁に太麺、鶏油、チャーシュー、ほうれん草、海苔と、スタイルは間違いなく家系ラーメンと言ってよい。

 鶏油の香りに、濃厚な豚骨出汁と、強めの醤油がグイッと口に広がるが、全体のバランスのよさが篠寛流。麺は雲南市の有名製麺所「出雲たかはし」特注のストレート太麺で、シッカリとした食感がある。チャーシューは‟窯焼焼豚”で、香ばしい香りに、旨味がある逸品。

 松江市で唯一、家系が味わえる店として人気だ。

ショッピングがてら気軽に楽しめる「横浜家系ラーメン吉岡家 ゆめタウン出雲店」

 第3回で紹介した博多の豚骨ラーメンを伝承する「拉麺 神楽」の姉妹店。2021年10月に「拉麺 神楽 米子錦町店」をリニューアルし、「横浜家系ラーメン吉岡家 米子錦町店」がオープンした。現在は山陰両県で4店舗を展開する。

 中でも2022年3月に開店した「ゆめタウン出雲店」は、ショッピングセンターのフードコートにあり、本格的な家系ラーメンを気軽に楽しむことができる。鶏油の甘い香りに、しっかりと炊き込まれたクセのない豚骨醤油出汁。麺は老舗中華麺製麺所に特注したという低加水ストレート太麺だ。ゴワッとした強い食感が良い。

 家系の特徴でもある麺長が短いところにも、こだわりを感じる一杯といえる。

まだまだたくさんの人気店

 「担担麺」の人気店が山陰にはまだまだ存在する。「四川担担麺 蒼雲・鳥取」「天真爛漫・松江」「拉麺かもす・松江」「壱龍ラーメン・松江」「翠苑平田店・出雲」「出雲翠苑・出雲」などなど。刺激的な四川式や、夏は冷やしも提供されていることが多い。

 そして、家系は麺の固さ、スープの脂の量、味の濃さを好みでオーダーでき、テーブル上の調味料を使いカスタマイズも可能。ライスと合わせて食べる客も多く、食べ方を店内に案内していたりするので、「担担麺」「家系ラーメン」ともに、店に足を運んで味わってみて頂きたい。

◎文・写真:松村 隆久 (まつむら・たかひさ)

フリーカメラマンを本職とする傍ら、ラーメンの食べ歩きをライフワークとする。自分流のラーメンを求めて、山陰各地をはじめ、関東、関西、九州など県外へも足を運び食べ歩いたラーメンは数知れず。

ブログ・麺ある記 山陰―ラーメンの旅―(こちらから)、地元フリーペーパーいかこいコラム、日刊ラズダ執筆中。

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