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山陰ラーメン事情 Vol.4
山陰ラーメン事情 Vol.4
専門店ではないのに旨い店
第1回は松江クラシックや山陰ちゃんぽんなど、島根のラーメンの歴史について、第2回は多種多様なラーメンを提供する新進気鋭のお店を中心に、第3回は牛骨や豚骨などのスープに使うメイン食材や醤油や塩などの調味料にこだわるお店を紹介した。今回は少し視点を変え、松江市や出雲市を中心に多く存在する「ラーメン専門店ではないのに、ラーメンがうまいお店」を紹介したい。(松村 隆久)
■掲載店一覧
住所:島根県安来市荒島町1774-2【MAP】/℡0854-28-6755
住所:松江市西川津町2580-1【MAP】/℡0852-26-3993
住所:松江市末次本町87【MAP】/℡0852-21-2497
住所:松江市内中原98【MAP】/℡0852-21-6097
住所:松江市鹿島町北講武885-7【MAP】/℡0852-82-9300
住所:島根県松江市南田町120-1【MAP】/℡0852-22-2854
住所:出雲市姫原町156【MAP】/℡0853-31-6870
住所:出雲市大社町杵築南814【MAP】/℡0853-53-2285
住所:出雲市古志町1026-4【MAP】/℡0120-213-597
住所:島根県飯石郡飯南町頓原2247-2【MAP】/℡0854-72-0525
蕎麦とラーメンの本格二刀流「そば処 大塚」(安来市)
2018年7月に安来市の「らーめんつり吉」跡にオープン。店名は「そば処 大塚」となっているが、メインメニューは蕎麦とラーメンの2本立て。店主の大塚さんは、足立美術館近くにあった「吾妻そば」で17年間修業をした後に、「らーめんつり吉」でラーメンの技術を習得し、蕎麦もラーメンも修業した本格派だ。スープは牛骨ダシだが、脂は少なめなのでスッキリしており、醤油の塩味がしっかりと効いていて美味い。麺は低加水の中細ストレート。シコシコとコシがあり、スープとの相性が良い。トッピングはチャーシュー、メンマ、モヤシ、ネギ。チャーシューは柔らかくシッカリとした味付けで美味だ。全体にシンプルで毎日食べても飽きのこない王道のラーメンを提供する。
松江屈指の有名店にルーツを持つ「居酒屋みか」(松江市)
居酒屋なのに、こだわりのラーメンが食べられると評判だ。店主の高井美香さんは、老舗人気ラーメン店「美香蘭」の三姉妹の長女。7年前から「美香蘭」を次女と三女に任せ、当店を営んでいる。ラーメンのメニューは「塩ラーメン」「醤油ラーメン」「野菜パイタン」「ちゃんぽん」「しじみラーメン」。基本の「塩ラーメン」は、鶏ガラベースの綺麗に澄んだスープで、スッキリとした塩味に、鶏出汁の甘い香りとシッカリとした旨味がグイッと口の中に広がる。「醤油ラーメン」も甘い香りに鶏ガラ出汁のシッカリとした旨味、さらに醤油のまろやかな旨味が絶妙なバランスで合わさる。「塩ラーメン」のスッキリ感のある美味さも捨て難いが、醤油味のまろやかに広がるような美味さは後を引く。「美香蘭」の豚骨ベースに対し、当店は鶏ガラベースだが、味にはどこか通じるところがあり、老舗の王道の美味さに、美香さんのこだわりを加えて進化させた松江ネオクラシック。こだわりのラーメンは昼、夜営業ともにいただける。
老舗甘味処のお団子とラーメン「お団子と甘味喫茶 月ヶ瀬」(松江市)
創業1947年。古くから松江市民に愛される老舗甘味処。第1回の「山陰のラーメン事情」で紹介した「らーめん茶屋 てまり」の姉妹店で、甘味のみならず本格的なラーメンもいただける。甘味処ならではの意外な組み合わせで評判なのが「お団子セット(あごだしらーめん、みたらし団子、サラダ)」と、「甘党セット(あごだしらーめん、白玉ぜんざい、サラダ」。スープは、焼アゴと鶏のダブルスープで焼アゴの香りがよく、あっさりとした和風な味わい。自家製の中細ちぢれ玉子麺でスープとの相性も良い。団子はデザートとする人が多いだろうが、私はあえて団子を先にいただく。甘いものを食べればしょっぱいものが食べたくなるのは世の道理で、甘くなった口にラーメンのしょっぱさがたまらない美味さとなる。数種類そろう団子やラーメンの中から、組み合わせをチョイスすることも可能だ。自分なりのマッチングを探してみるのも楽しいだろう。
受け継がれた変わらぬ老舗食堂の味「三代目 徳平」(松江市)
1950年創業の名物「秘伝味おでん」と、創業以来変わらぬ味という「ラーメン」が人気の老舗「徳平食堂」。2020年11月に「三代目 徳平」としてリニューアルした。名物の「秘伝味噌おでん」と「ラーメン」が一度に味わえるお得な「おでんラーメンセット(おでん、ラーメン、ご飯)」がオススメだ。おでんは7品の中から3品選べる。どの具も出汁が染み、醤油出汁と味噌ダレのコクある旨味が合わさり唯一無二な美味さだ。ラーメンは、スッキリとしながらも奥深い味わいのスープと、とろけるように柔らかなチャーシューが人気だ。おでんとラーメンの相性も抜群で、おでんを頬張り、ご飯を食べ、すかさずラーメンをすする。三位一体ならぬ〝三味一体〞の美味さが堪らない。ループする手が止まらなくなること請け合いで、受け継がれる老舗の味を堪能できる。
あったか温泉施設で味わう海鮮とラーメン「多久食堂」(松江市)
松江市の島根半島寄りに位置する鹿島町の、温泉「多久の湯」の施設内で営業する「多久食堂」は、地元の鮮魚や食肉を使った数々の料理が楽しめる食事処。人気メニューの一つに「藻塩ラーメン」がある。スープは、澄んだ鶏ガラ出汁。自家製ニンニク油が香ばしく、スッキリとした中にミネラルたっぷりの藻塩のまろやかな旨味が特徴的な美味さ。麺は中細のちぢれ麺。厚切りのチャーシューは、自家製でまろやかなスープと相性が良く、ほどよい味付けで肉の旨味も申し分ない。細かいところまで料理人らしい仕上がりで、専門店顔負けの一杯だ。そして、「藻塩ラーメン」に並び人気なのは、地元の食材を使った数量限定の「炊き込みご飯定食」。 日によって食材は変わり、新鮮な刺身やおかずと旨味たっぷりの炊き込みご飯の組み合わせは、ちょっとしたご馳走だ。温泉と併せて楽しむのがオススメだが、食事だけでも利用ができる。
松江のソウルフード。ラーメンとカツライス「お食事処 ふの」(松江市)
メイン通リから路地に入った住宅街にある老舗の食事処。「カツ丼」や「オムライス」などが人気メニューだが、「ラーメン」も1968年創業時から変わらない味で定評だ。やや白濁した豚骨出汁に醤油ダレ。見た目よりさらりとライトで、素材の豚骨がしっかりと感じられる仕上がり。丁寧に仕事をしているのが分かる。麺は中細のちぢれ麺。チャーシューは、一枚はそのまま、もう一枚は細かく刻まれており、麺と絡んで口に入ってくるのが楽しい。スープはやや甘さも感じられる味わいで、スッと入っていくような優しい美味さ。松江のソウルフードとも言われる「松江カツライス」の名店でもある。松江の古い洋食屋、食堂の定番メニューで、ワンディッシュにご飯と野菜、その上にトンカツをのせてデミグラスソースをかけるのが「カツライス」。創業から継ぎ足されたデミグラスソースは変わらない味。癖がなくあっさりした中にコクがある。ボリュームたっぷりなのにペロリといただける美味さだ。
専門店も驚きの進化をする居酒屋ラーメン「舟島屋」(出雲市)
古民家を改装したおしゃれな居酒屋。2019年からラーメンランチを始めた。スタート時からあるメニューが「あごだし中華そば」で、スープはしっかりとした魚介の香りと、旨味が前面に感じられる甘さのある味わい。刻み赤タマネギと、三つ葉の香りが甘さのあるスープに清涼感を与える。ときたまスープに入っている細かい柚子皮の香りも良いアクセントになっている。一つ一つが丁寧に作られており、居酒屋の片手間ではなくラーメン店としてのクオリティーある一杯だと分かる。コロナ禍で居酒屋業が苦戦する中、ラーメンに力を入れ、専門店を凌駕する進化を遂げている。「あごだし中華そば」以外にも「とんこつ九州らーめん」「海老味噌ラーメン」「燕三条煮干し豚骨ラーメン」「台湾まぜそば」「柑橘塩つけ麺」など、数多くの魅力的なメニューをそろえ、もはやラーメン店と居酒屋の〝完全二毛作〞と言ってよい。いま一番目が離せないお店だ。
古き大社で人気をわける食堂ラーメン「奴」(出雲市)
出雲市大社町で創業から半世紀以上になる老舗食堂。長く地元に住む人によると、定番のラーメンは、海側に住む人は「食事処 きんぐ(山陰のラーメン事情 第1回で紹介)」で、山側に住む人は「奴」。古くは大社町で人気を二つに分けるお店だったそうだ。「奴」のラーメンは豚骨を使った醤油系。松江クラシックにも通ずる、シンプルで昔懐かしい「ザ・ラーメン」という味わい。私は普段、胡椒などを使わない主義だが、この手のラーメンは白胡椒がよく合う。やさしい風合いのスープに一振りするだけでコクが増し、一味変わるのが不思議だ。麺は中細のちぢれ麺。スープがよく絡んで美味い。チャーシューにモヤシ、カマボコがのるのも大社のラーメンならでは。塩味の焼きそばに、ウスターソースを後がけする「大社焼きそば」が、ラーメンと並ぶ人気メニューなのも「食事処 きんぐ」と同じだ。
伝統の味をランチで、料亭のコク旨ラーメン「料亭たわら」(出雲市)
力士直伝の「たんこ鍋」が名物の料亭。「ちゃんこ鍋」の〆でしか味わえなかったラーメンが、常連客の要望でランチ限定「ちゃんこラーメン」としていただけるようになっている。自家製の鶏団子とチャーシュー、もやし、青ネギ、すりゴマがトッピングされる。白く濁ったスープはシンプルな塩味。鶏ガラと野菜を長時間煮込んだことで、旨味がしっかりと出ており、コクがあり、ニンニクを効かせた絶品スープだ。鶏団子の旨さは特筆で、ホロッと柔らかく鶏ミンチの旨味が口に広がり、料亭の味を感じさせる一品。同じく自家製のチャーシューもとても柔らかく煮込まれ、ふわっと香る生姜が良いアクセントになっており、和食の職人ならではのラーメンが味わえる。
山あいで長年愛されるラーメンとおでん「きらく食堂」(飯南町頓原)
山あいの町で半世紀以上にわたって愛される老舗食堂。豚汁やカツ丼などと並ぶ人気メニューが「ラーメン」だ。作り方が独特で、ベースの豚骨スープに豚バラ肉とシイタケを入れ、小鍋で炊いて丼に注ぐ。豚骨スープに豚バラとシイタケの旨味が加わることで、染み入るような深みある美味さとなる。麺は加水の低いストレート細麺。長年の勘で茹であげるが、加減がジャストでシコシコとした食感が心地よい。大きめに笹切りされた青ネギの食感と香りがよいアクセントとなっている。ぜひ一緒に味わっていただきたいのは、一年を通していただける名物の「おでん」だ。長年継ぎ足しされた出汁で炊き込まれ、よく染みていて美味い。ラーメンを待つ間に頬張れば、至福の時を過ごせる。
◎文・写真:松村 隆久 (まつむら・たかひさ)
フリーカメラマンを本職とする傍ら、ラーメンの食べ歩きをライフワークとする。自分流のラーメンを求めて、山陰各地をはじめ、関東、関西、九州など県外へも足を運び食べ歩いたラーメンは数知れず。ブログ・麺ある記 山陰―ラーメンの旅―(https://menaruki.exblog.jp/)、地元フリーペーパーいかこいコラム、日刊ラズダ執筆中。