SPECIAL TOPICS

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山陰ラーメン事情 Vol.1

山陰ラーメン事情 Vol.1

各店で工夫 バリエーションも豊富 出雲石見で違う好み

 島根県は出雲地方を中心とした「割子蕎麦」など蕎麦処として知られ、ラーメン不毛地域と思われがちだが、麺好きの県民がラーメンを見逃すはずがなく、特に県庁所在地の松江市などは古くからラーメンを好む地域。豚骨メインに清湯(ちんたん)スープに醤油または塩味で、中太の中加水ちぢれ麺を組み合わせたオーソドックスで昔なつかしい「松江クラシック」や、あんかけ中華そばの「山陰ちゃんぽん」などが古くから食されてきた。(松村 隆久)

■掲載店一覧

太平楽

 住所:松江市朝日町487【MAP】/℡0852-21-5313

味富

 住所:松江市伊勢宮町538【MAP】/℡0852-28-2202

ラーメン茶屋 てまり

 住所:松江市黒田町469-2【MAP】/℡0852-27-4600

きんぐ

 住所:出雲市大社町杵築東599【MAP】/℡0853-53-2473

喜楽

 住所:江津市江津町1214【MAP】/℡0855-52-2578

 

松江のソウルフード 「太平楽」(松江市)

 松江市内には「うの花ラーメン」「美香蘭」「中華そばあんくる」「ちくてい」など、「松江クラシック」に分類されるラーメンを提供するお店が今でも残る。代表的なのは「太平楽」で今でも行列が絶えない老舗だ。国鉄マンだった松村金之助氏が、夫婦でラーメンを提供しだしたのが昭和30年頃。メニューは「ラーメン」「大盛り」「特盛」のみ。

 味の研鑽に励みラーメンだけで勝負した。その味は最盛期には一日400食以上売り上げるなど、ガッチリと市民の胃袋をつかみ、松江のソウルフードとも称されるほどで「松江クラシック」を確立したと言っても過言ではない。今は伝統の味が娘姉妹に受け継がれている。開店時間の10時半前から客が並び、昼前には売り切れ閉店になることも多いのでご注意を。

異色の味噌ラーメン「味富」(松江市)

 昭和40年頃に山陰で初めて「味噌ラーメン」を提供したと言われるのが松江の「味富」。豚骨、鶏ガラベースの清湯だしに自家製の味噌ダレを使ったスープは甘さや余分な旨みはできるだけ抑え、味噌の持つ旨みと塩分でストレートなおいしさを作り出している。あっさり系で確かに昨今の味噌ラーメンのようなインパクトはないが、どこか懐かしさのある味噌ラーメンで代々受け継がれた昭和の味。「ぎょうさん」と呼ぶ餃子も名物。

 

山陰ちゃんぽん「ラーメン茶屋 てまり」(松江市)

 関西中華がルーツと思われる「山陰ちゃんぽん」は、山陰で古くから広く定着している。松江の「ラーメン茶屋 てまり」が提供する元祖「山陰ちゃんぽん」が人気だ。たっぷりの野菜と豚肉、海老などを加えた熱々のあんかけが、なみなみと注がれる。麺は「長崎ちゃんぽん」の太麺とは違い中細のちぢれ麺。具材の旨味が溶け出した熱々のあんを絡めていただくと、寒い季節には体の芯から温まる至福の一杯だ。近年は中細カリカリ揚げ麺にあんかけの新メニュー「山陰皿うどん」も提供している。

出雲大社のおひざ元で愛される一杯「きんぐ」(出雲市)

 出雲大社のある出雲市大社町にも、立ち並ぶ蕎麦屋の中に地元で長く愛されるラーメンがある。表通りから外れて路地に入った奥にある「きんぐ」の「中華そば」だ。昭和33年ごろに初代が九州で味わったラーメンを、地元の人に好まれるように改良したのが始まり。豚骨と鶏ガラにショウガ、セロリなどの香味野菜を加えて、スッキリ清湯に仕上げてある。

 現在3代目・吉田一久氏に引き継がれているが、スープは代々継ぎ足しされていて、歴史を重ねた老舗ながらの味わい。「割子蕎麦」の食べ方をヒントにしたと言われる、塩味の焼きそばにウスターソースを後がけする大社焼きそばも人気の一品。

西の豚骨白湯ラーメン「喜楽」(江津市)

 東西に長い島根県、西部では九州の影響が色濃くなるのか、江津市では「喜楽」の豚骨白湯ラーメンが長く愛されてきた。ほのかな豚骨臭漂う白湯スープに、低加水中太ストレート麺のコンビネーションが絶妙の一杯。

 昭和30年代に屋台から始まったと言われ、平成25年8月の江の川水害で被害を受け一度閉店するものの、地元常連たちの強い再開要望で、同年末に「喜楽」として同じ江津市内に移転復活した。現在は三代目の井上貴仁氏が初代の味を守り続ける。

新進気鋭が揃う現在

 島根でも他の地域と同様に、現在は新進気鋭の若手の店主により、バリエーションが豊かなラーメンが提供されている。松江の「麪家 ひばり」もその一つ。人気の「白湯らあめん」は、白湯に地元アゴ(トビウオ)だしをメインに、煮干しの旨味をふんだんに用いた魚介系。松江城からほど近い立地で、地元客のみならず観光客など県外から訪れる客も多い。

 漁獲量日本一を誇る宍道湖のシジミを使ったラーメンを全面に押し出した、出雲斐川の「かみあり製麺」の看板メニューは「~食べたらキレイになる~縁結びしじみ塩らあ麺」。日本三美人の湯で知られる「湯の川温泉」近くに立地し、内から外からキレイになれそう。

 その他にも、松江は鶏魚介ダブルスープとレアチャーシューの「麺や 拓」、豚骨魚介ダブルスープの「天空」、東京の銘店の味を継承する「支那そば かつみ」などが人気を集める。出雲市は元フレンチシェフの鮮魚系ラーメン「空海」、大田市の地元醤油の旨味を押し出した「麺創ラーメン篠寛」や、江津市の無化調豚骨ラーメン「八百山」などなど。

 新旧含めて多彩な美味さが揃う島根のラーメンを、ぜひ食べ歩きして。

 

◎文・写真:松村 隆久 (まつむら・たかひさ)

フリーカメラマンを本職とする傍ら、ラーメンの食べ歩きをライフワークとする。自分流のラーメンを求めて、山陰各地をはじめ、関東、関西、九州など県外へも足を運び食べ歩いたラーメンは数知れず。ブログ・麺ある記 山陰―ラーメンの旅―、地元フリーペーパーいかこいコラム、日刊ラズダ執筆中。

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